海水:ベータ線核種(ストロンチウム90)の分析
ストロンチウム90の放射能測定の要点
ほとんどの放射性物質は 壊変 したときにガンマ線を放出します。ガンマ線はそれぞれ物質に固有のエネルギーを持っているので、ガンマ線を測れば含まれる放射性物質が何であるか、また、どの程度含まれているかを知ることができます。
しかし、ストロンチウム90は、ガンマ線が放出されないで、ベータ線のみが放出されます。ベータ線はガンマ線と違って、固有のエネルギーを持っていないため、どの放射性物質から放出されているかを決めることはできません。このため、化学的にストロンチウムだけを分離精製する必要があります。ストロンチウムだけになった後に、ストロンチウム90のベータ線を測るわけですが、実際には、ストロンチウム90が 壊変 して生成されるイットリウム90のベータ線の方がエネルギーが大きく測りやすいため、このベータ線を測定し、その結果からストロンチウム90の放射能を算出する方法をとります。
1.大型イオン交換樹脂カラムによる予備濃縮
- 海水試料30~50リットルを容器に量り取ります。
- 試料溶液を大型イオン交換カラムに通し、ストロンチウムなどを吸着させます
- 溶離液A(酢酸アンモニウム溶液-メタノール)を通し、マグネシウムやカルシウムを溶離し、廃棄します。
- 塩酸を通し、ストロンチウムを溶出します。
2.炭酸塩沈殿生成操作によるストロンチウムの濃縮
溶出液を5リットルビーカー2個に等分した後、それぞれに次の操作を行います。
- かき混ぜながら水酸化ナトリウムを少しずつ加えてアルカリ性とします。さらに炭酸ナトリウムを加えて炭酸塩沈殿を生成し、加熱熟成します。
- 上澄み液を捨て、沈殿を遠心分離します。沈殿を塩酸に溶解し、次の操作に移ります。
3.イオン交換法によるストロンチウムの精製
イオン交換法とはイオン交換樹脂を利用してカルシウム等の妨害元素を分離除去する操作です。
- 試料溶液をイオン交換樹脂に通してストロンチウムなどを吸着させます。
- 溶離液A(酢酸アンモニウム溶液-メタノール)を通してカルシウム等を溶離し廃棄します。
- 溶離液B(酢酸アンモニウム溶液)を通し、ストロンチウムを溶出します。
ストロンチウムの溶出液は蒸発乾固したのち希硝酸に溶かします。
4.スカベンジング操作によるイットリウム90の除去
「ストロンチウム90の放射能測定の要点」で述べたように、放射能測定ではストロンチウム90から生成されるイットリウム90の放射線を測定します。正確を期するため、試料に含まれるイットリウム90をいったん完全に除去したのちに、試料中のストロンチウム90から新たに生成されるイットリウム90の放射線を測ります。
このためのイットリウム除去操作は「スカベンジング操作」といい、分析の重要なステップです。説明は省略しますが、右図に示す化学操作でイットリウムを除去します。
このストロンチウム溶液からイットリウム90の生成を待つため2週間以上放置します。
5.ミルキング操作による放射能測定試料の調整
放射能測定用試料 (直径 約2.5cm)
ストロンチウム90から生成したイットリウム90を水酸化鉄と共に沈殿物として回収する一連の手順を 「ミルキング操作」といいます。
スカベンジング操作と同じ操作を行いますが、イットリウム90を含む水酸化鉄沈殿は、ろ紙上にマウントして放射能測定用試料とします。
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